
マイコプラズマ
マイコプラズマとは
マイコプラズマは、細菌とウイルスの中間的な性質を持つ微生物で、細胞壁を持たないことが特徴です。そのため、一般的な細胞壁合成阻害剤であるペニシリン系やセフェム系の抗生物質は効果がありません。マイコプラズマは自己増殖が可能で、主に呼吸器系の感染症を引き起こします。
マイコプラズマ肺炎の疫学
マイコプラズマ肺炎は、特に5歳から10歳の学童期の子どもに多く見られます。日本では、以前は4年周期で流行が報告されていましたが、近年はこの傾向が崩れつつあります。感染は通年で見られますが、晩秋から早春にかけて報告数が増加する傾向があります。
病原体の特徴
マイコプラズマ肺炎の原因菌である肺炎マイコプラズマは、自己増殖可能な最小の微生物で、生物学的には細菌に分類されます。細胞壁を持たないため、多形態性を示し、ペニシリンやセフェムなどの細胞壁合成阻害の抗菌薬には感受性がありません。専用の培地上で増殖可能ですが、培養には2~4週間と長い時間がかかります。
感染経路と潜伏期間
感染は主に飛沫感染と接触感染によって広がります。濃厚な接触が必要とされ、学校や家庭内での集団発生が報告されています。潜伏期間は通常2~3週間で、感染者は症状発現前2~8日から病原体を排出し始め、臨床症状発現時にピークとなり、高いレベルが約1週間続いたあと、4~6週間以上排出が続くとされています。
症状
主な症状は以下のとおりです。
- 発熱:微熱から高熱まで様々で、発熱がない場合もあります。
- 咳:初期は乾いた咳で、徐々に強くなり、解熱後も3~4週間続くことがあります。
- 全身倦怠感:だるさや疲労感を訴えることがあります。
- 頭痛:軽度から中等度の頭痛が見られることがあります。
- 咽頭痛:喉の痛みや違和感を感じることがあります。
- 消化器症状:嘔吐、下痢、腹痛などが約25%の患者で見られます。
- 皮疹:6~17%の患者で発疹が報告されています。
特に年長児や青年では、後期には湿性の咳となることが多いとされています。鼻炎症状は典型的ではありませんが、幼児ではより頻繁に見られます。
診断方法
診断には以下の方法があります。
- 培養検査
咽頭拭い液や喀痰からの病原体分離が確定診断となりますが、培養には2~4週間かかるため、臨床現場での利用は難しいです。 - PCR法
病原体の遺伝子を検出する方法で、迅速かつ高感度ですが、実施可能な施設は限られています。 - 血清診断
補体結合反応(CF)や間接赤血球凝集反応(IHA)で抗体価の上昇を確認します。ペア血清で4倍以上の上昇、または単一血清で高抗体価(CFで64倍以上、IHAで320倍以上)が診断の目安となります。
治療法
治療には以下の抗菌薬が用いられます。
- マクロライド系
クロライド系抗生物質(例:クラリスロマイシン、アジスロマイシン)**は、特に子どもに対して安全で有効とされています。しかし、近年、耐性を持つマイコプラズマ株も増加傾向にあります。 - テトラサイクリン系
ドキシサイクリンなど。主に成人に対して使用されることが多く、子どもや妊婦には推奨されません。 - ニューキノロン系
レボフロキサシンやモキシフロキサシンなど。成人に使用されることが多く、特に耐性が確認された場合に選択されます。
予防策
- 手洗い・うがいの徹底
感染予防の基本であり、特に外出先から戻った際には手洗いやうがいを行いましょう。 - マスクの着用
感染者と接触する際は、飛沫感染を防ぐためにマスクを着用することが効果的です。 - 定期的な換気
密閉空間でのウイルス拡散を防ぐため、窓を開けるなどの換気を心掛けましょう。 - 人混みを避ける
特に流行シーズンには、感染リスクを減らすために人が多い場所への訪問を控えることが有効です。
合併症
マイコプラズマ肺炎は基本的に軽症で経過することが多いですが、まれに重篤な合併症が生じる場合もあります。
- 肺外症状
気管支炎、中耳炎、副鼻腔炎など、呼吸器外の症状が現れることがあります。 - 重篤な呼吸器合併症
非常に稀ですが、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や無気肺、気胸が生じる場合があります。 - 免疫反応による合併症
脳炎や腎炎、心筋炎など、自己免疫反応を引き起こすケースもあります。
まとめ
マイコプラズマ肺炎は主に子どもに多い細菌性肺炎で、長引く咳や発熱が特徴です。感染は飛沫や接触で広がり、手洗いやマスクの着用が予防に有効です。診断には血液検査やPCR法が使われ、治療には主にマクロライド系抗生物質が用いられます。症状が長引いたり悪化した場合は、早めに医療機関を受診しましょう。近くの内科や小児科にご相談ください。
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